64歳「アナログおばさんでもできた!」──“やってみたい”と“胃袋コミュ力”で人生を味わい尽くすうさぎ作家

挑戦したい気持ちはあるのに、「もう遅いかもしれない」「うまくできる自信がない」とためらってしまう。そんな風に感じたことはありませんか?
うさぎさんをモチーフにジュエリーや帽子、絵本などを手がける作家・藤本えりかさん(以下:藤本さん)。64歳になった今もなお、作品づくりに情熱を注ぎ、挑戦を続ける藤本さんの姿からは、年齢を超えた創作の喜びと「誰かを喜ばせたい」という強い想いが伝わってきます。
今回は、そんな藤本さんに、作品づくりの裏側やチャレンジの原動力、そして元気の秘訣まで、お話を伺いました。
一目惚れした愛兎との出会い。子育てを終え、個人作家の道へ

まず、藤本さんが作家として活動を始めたきっかけについて教えてください。

最初はジュエリーデザイナーとして20歳から3年ほど働いていたんです。そこから知り合いのデザイナーのアシスタントを経て、妊娠を機に子育てに専念するため専業主婦になりました。
息子が小学生になった頃、子育てもひと段落したタイミングで「また何か作りたい」気持ちが強くなり、個人作家として活動を開始しました。

うさぎさんを作るようになったのは、どんなきっかけだったのでしょうか?

ジュエリー教室に通っていた時期があって、その教室でうさぎさんが飼われていて、初めてうさぎさんと出会いました。
あまり人馴れしていないうさぎさんだったので、なかなか撫でさせてくれない子だったのですが、気が付いたら足元にちょこんと居て、「うさぎさんってかわいいな」と気付いたきっかけになりました。
最初は友人の依頼で犬をメインに作っていたのですが、教室にいるうさぎさんを見て、うさぎさんも作れるんじゃないかな?と思い、うさぎさんの作品も作るようになったんです。
その頃、ペットショップに行ったときに愛兎のモコちゃんとも出会いました。ペットショップに向かっていたときは何か動物を飼おうという気持ちはなかったはずなのですが、あまりのかわいさに一目惚れして連れて帰ってしまいました(笑)。


そこからうさぎ魂に火がつき、モデルになるモコちゃんもお家にいるという状態なので、うさぎさんの作品をたくさん作るようになったんです。

「楽しそう!」から始まる創作。挑戦をし続ける熱量の塊
ジュエリー以外にも帽子にうさぎさんを描かれていますよね。始めたきっかけはなんでしょうか?

韓国旅行中に、路上マーケットで帽子に絵を描いている美大生を見かけて「楽しそう!」って思ったのがきっかけですね。それで帰国後に挑戦してみたんです。ただアクリル絵の具は初めてだったので、最初は何個も帽子をダメにしていました。

帽子って、キャンバスとはまた違った難しさがありそうですね。


そうなんです。布の質感が帽子によって違ったり、形が平らじゃなかったり、描いているとインクがにじんでしまったり、ムラになったり、試行錯誤の連続でした。でも、そのぶん思いどおりに描けたときの達成感は大きかったです。
実際に販売してみると反響も結構良くて。ジュエリーだけの頃のお客様は、ほとんどが女性だったのですが、帽子も追加してからは男性の方も多く来てくれましたし、子どもからお年寄りまで幅広い世代に喜んでもらえて嬉しかったです。バッグや洋服などにも描くようになり、作家としての幅が広がりましたね。
それから帽子のオーダーも取るようになったんです。「どの帽子もかわいいけど、やっぱうちの子の帽子が欲しい!」ってやっぱりみんなうちの子の帽子が欲しいんですよね。完成品を見た瞬間に涙を浮かべて「うちの子だ~!」喜んでくださったこともあり、嬉しくて。あのときは本当にオーダーを受けて良かったと感じました。

それはとても喜ばしい話ですね。他にはどのような作品を作られているのでしょうか?

絵本を描いたこともありましたね。コロナ禍でイベントがなくなったときに、時間を使って集中して描いてみようと思って。製本してくれるところを調べて、原画を送り絵本にしてもらいました。60歳の還暦記念に、いいチャレンジができました。
昨年の2024年にはデジタルのイラストでステッカー作りにも挑戦しました。ただアナログおばさんなのでデジタルでイラストを描くのには慣れていなくって、最初はチンプンカンプンでした。
それでも「描きたい」「作ってみたい」という気持ちがあったから、なんとか食らいついて。初めてステッカーが完成したときは本当に感動しましたね。「アナログおばさんでもできた!」って。

活動歴30年を経て実感「体が資本」健康と交友関係を支える手料理コミュニケーション

活動歴30年以上ともなると作家同士のつながりもたくさんあるのでしょうか?

もちろんありますよ。イベントではよく飴ちゃんやお菓子を配って挨拶回りをしています。「甘いものどうぞ〜」って声をかけるだけでも、そこから自然と会話が生まれるんですよね。イベント中にLINEを交換したり、仲良くなったらその後「ごはんに行きましょう」と誘ったりもします。
私は料理も大好きで、作るのも食べるのも楽しみのひとつなんです。仲良くなった方は、家に呼んで手料理をふるまうこともあります。交友関係は胃袋で掴みにいくスタイルです(笑)。
作家ってひとりで作業する時間が長いけれど、やっぱり人とのつながりがあると楽しいし刺激にもなるんです。誰かと笑って、食べて、おしゃべりして。そういう時間があるから、また頑張れるんですよね。


胃袋で掴みにいくスタイル(笑)。藤本さんのまわりに人が集まる理由がよくわかります。

「体が資本」であることを日々感じています。細かい作業が多いものづくりには、体力も集中力も欠かせません。元気な体があるからこそ、また誰かを笑顔にする作品を作れるんですよ。
一度はね、「もう年で細かい作業も難しくなってきたからそろそろ引退しようかな」と思ったこともあるんです。でも、「藤本さんの作品、ずっと楽しみにしています」とか「また新作見たいです」って声をかけてくれるお客様がいて。「ああ、私やめられないなあ」って思っちゃうんですよね。
誰かが楽しみにしてくれている、それが大きな原動力になっています。そのためにもしっかり栄養のある物を食べて、たっぷり休んで、よく動く。これで健康を維持して、70歳になるまでは作家活動を続けたいと考えています。

「やってみたい」に素直に生きる。声に出して自分を励ます。

今後挑戦したいことはありますか?

明確に「これをやる」と決めているわけではないのですが、何かをふっと「やってみたい」と感じた瞬間に、年齢を気にせず挑戦したいです。自分で無理だとか、不可能だとか自分に制限を設けずに挑戦し続けたいと思います。

チャレンジ精神旺盛ですね、藤本さんのように前向きになるにはどうすればいいのでしょうか?

自分の「やってみたい」という気持ちに素直になることだと思います。そして、それを遠慮せずに口に出してみること。私はよく、トイレに入ったときやふとした瞬間に「私はできる、大丈夫」と自分に声をかけるようにしています。プラスの言葉を声に出すことで、自然と元気が湧いてくるんですよ。
逆に、「無理、できない」といった否定的な言葉を自分に向けてしまうと、本当にできなくなってしまいます。だからこそ、ポジティブな言葉を使って、自分を励ますことが大切なんです。
何かに挑戦するのに遅すぎることなんてありませんし、たとえ失敗してもそれが経験になる。私はいつも「とりあえずやってみよう」と思って動いています。そうしているうちに、不思議と次の道が開けてくるんですよ。

ありがとうございます。最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

オーダー、いつでも受け付けてます!もし私の作品で喜んでもらえるなら、一生懸命心を込めて作らせていただきます。ちょっと待ってもらうこともあるけど、気長に楽しみにしていてくださいね。


小さな「やってみたい」を見つけたら、それを信じて少しだけ前に進んでみる。藤本さんの歩みは、そんな一歩を踏み出す勇気をそっと背中から押してくれるようでした。
自分を信じること。声に出して励ますこと。藤本さんが大切にしてきたその習慣が、いまを生きる私たちにもできる小さな一歩になるはずです。

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